コペンハーゲンの自転車専用レーンはなぜ安全・快適に走れるのか考えた

モビリティ

日本では、近年、環境保護や健康促進などの点から自転車への注目が高まっており、都市部でも自転車専用レーンを見かける機会が増えてきたと思います。

自転車大国と言われるデンマークの中でも、首都であるコペンハーゲンでは自転車政策が進んでいて、自転車専用の高速道路(Cycle Superhighways)や走行速度を時速20kmに統一するためのグリーンウェーブ(green wave)などの整備が進んでいます(中島,2020)。結果的に、自転車の利用率は急増し、2018年時点で市民の49%が通勤・通学に自転車を利用するようになりました(City of Copenhagen,2019)。

こうした整備に加え、コペンハーゲンで自転車に乗った際、自転車専用レーンそのものに自転車が普及した秘訣があると感じたので、記事にしました。

運河沿いの自転車専用レーンを走行する自転車(デンマーク・コペンハーゲン)
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多くの自転車が快適かつ安全に走行できる自転車専用レーン

ポイントをお伝えする前に、コペンハーゲンの自転車専用レーンがどのような状態だったのかお伝えしようと思います。

コペンハーゲンでは自転車が普及していると聞いていたので、自転車の台数が多いということは予想していましたが、実際に見て、多くの自転車が高速で走っているにも関わらず、事故や事故になりそうな光景を全く目にしないことに驚きました。(どのくらい台数が多いかというと、夕方の帰宅ラッシュ時は、信号待ちの際、5-6mの自転車の列ができることもあるほどでした。)

コペンハーゲン市では2025年までに通勤・通学に自転車を利用する人の割合を50%にすることを目標としていて、そのために安全性を高めること、快適に走行できる環境を作ることに力を入れています。そしてOECDの調査によると、コペンハーゲンは2011-2015年の間、EUとアメリカにある30の都市のうち、自転車に乗る人の死亡事故が最も少ない国であったそうです(City of Copenhagen, 2019)。

今回お伝えすることは、そうした安全性や快適性を高める取り組みの中で行われてきたことのようです。

ポイント1 右側通行が徹底している

右側通行が徹底しているため、走っていて対向車が来ることはまずありません。そのため、走行が遮られることがなく、快適なスピードで進み続けることができます。

驚いたのはその徹底具合で、右側通行は交差点にも適用されます。

例えば、次のような大通りの交差点で、左折しようとします(Google, n.d.)。

多くの車や自動車が行き交う交差点(デンマーク・コペンハーゲン)©Google

この時、そのまま左折するのはルール違反なのです。一度直進して反対の通りに渡ってから左折するか、すぐに左折したいのであれば自転車を降りて押しながら(歩行者として)進まないといけないのです。

正直なところ、最初は面倒な気もしましたが、駅前の大通りの交差点ともなれば、自転車・自動車共に交通量が多く、道路を渡れる時間も限られています。そんな中で、両側からたくさんの自転車が横断歩道を渡ったら…混乱は避けられませんし、当然事故も多くなると思います。交差点まで右側通行を徹底するのは、安全かつ円滑に自転車を走らせるための工夫なのだと分かりました。

ポイント2 車道の両側に自転車専用レーンが確保されている

これは先ほどの右側通行の話と関係するのですが、狭い道であっても必ず車道の両側に自転車専用レーンが確保されているため、対向車と接触する可能性が限りなく低くなっています。

両側に自転車専用レーンを設けることが難しいことだというのは、近隣の北欧(フィンランド及びバルト三国)の首都を訪れて感じました。広い道では両側に自転車専用レーンがあっても、比較的狭い道になると片側しか自転車専用レーンを用意できない、というところがほとんどでした。

日本より土地に余裕があるはずなのになぜ、と思うかもしれませんが、ヨーロッパでは路上に駐車することが認められているため、道路の多くのスペースを自動車が占めてしまい、自転車専用レーンを設けることが難しくなっているのです。(そのような所では、自転車は車道を走ったり歩道を走ったり、とまちまちでした。)コペンハーゲンでは、路上の駐車スペースを減らして、自転車専用レーンを整備したそうです。(Aalto University, 2017)

両側が駐車場となっている観光地周辺の道路(フィンランド・ヘルシンキ)

ちなみに、ポーランド・ワルシャワの大通りでは、路上の駐車スペースを維持しつつ、自転車専用レーンを確保するため、沿道の建築物を壁面後退させた事例も見られました。

壁面後退によって、建物前の駐車場と自転車専用レーンを確保し、植栽も充実させた通り(ポーランド・ワルシャワ)
駐車場スペースを確保しながらも整備された自転車専用レーン(ポーランド・ワルシャワ)

ドライバーも、自転車に乗る人も、歩行者も尊重した通りになっていますね。

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ポイント3 自転車専用レーンと歩道を遮るものがほとんどない

これはなぜ重要かというと、自転車専用レーンを円滑に進めるには、止まりたい自転車が自由かつ安全に止まれる環境があるか、ということが鍵になると思ったからです。

コペンハーゲンでは必ず自転車専用レーンの右隣(進行方向から見て)に歩道があり、自転車専用レーンと歩道の間にあるものはコンクリートブロック程度なので、手信号で合図を出せば、止まりたい時はいつでも歩道に移り、自転車から降りることができます。

このおかげで目的についた人、また少し休みたい人などは、自転車専用レーンの流れを乱すことなく気軽に停止することができ、先に進みたい人はそれまでの快適なペースを維持して走行できるようになっているのだと分かりました。コペンハーゲン市も、自転車の交通量が増加する中で「自転車での通勤者も、6歳で初めて自転車に乗る子供も、のんびりと自転車に乗るお年寄りも、海外から初めて来る人も関係なく、すべての人のためのスペースを作るよう努力しないといけない」と明記しています。(City of Copenhagen, 2019)様々な立場の人を包み込めるというのは、まちづくりにおいてやはりとても大切なのだと思いました。そして実際に、土地勘のない自転車初心者である筆者は、この環境をとてもありがたく感じました。

右横の歩道に容易に移動できる自転車専用レーン(デンマーク・コペンハーゲン)

日本では、歩行者の安全を確保するため、車道と歩道の間にガードレールが設けられていることが一般的ですが、自転車専用レーンを車道の端に設ける場合、もしかするとガードレールはない方が、自転車にとっては走りやすいのかもしれない…と感じました。

まとめ

今までは、北欧諸国は国土が広いため、自然と自転車が普及したようなイメージを持っていましたが、コペンハーゲンでこれほど自転車が普及したのは、綿密な計画とその実践があったからこそなのだと分かりました。

また、北欧は人口が日本よりも少なく面積に余裕があるため、自転車専用レーンを設けることは日本よりずっと簡単なのでは、と思っていましたが、合法的な路上駐車といった日本にはない問題があるなど、日本の方が自転車専用レーンを設けやすい環境なのかもしれない、と思うこともありました。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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参考文献

Aalto University (2017) “Jan Gehl, architect: “Livable Cities for the 21st Century””, [online]. Available at: https://www.youtube.com/watch?v=882rELJMHt8&list=WL&index=2&t=0s, (Accessed: 2 Sep 2020)

City of Copenhagen (2019) “The Bicycle Account 2018 Copenhagen City of Cyclists”, p.5.6.10 [online]. Available at: https://kk.sites.itera.dk/apps/kk_pub2/pdf/1962_fe6a68275526.pdf (Accessed: 2 Sep 2020)

City of Copenhagen (2018) “COPENHAGEN CITY OF CYCLISTS FACTS AND FIGURES 2017”, p.3 [online]. Available at: https://urbandevelopmentcph.kk.dk/sites/urbandevelopmentcph.kk.dk/files/city_of_cyclists_facts_and_figures_2018.pdf (Accessed: 2 Sep 2020)

Google (n.d.) “Copenhagen station”, [online]. Available at: コペンハーゲン, デンマーク首都地域 – Google マップ (Accessed: 20 Feb 2021)

中島健祐『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくり』(2019年)学芸出版社, p75-84