考える場としての建築ツアー(デンマーク)

コミュニティ

デンマークで都市デザインを学んだ後、建築ガイドとして働き始めました。ツアーに参加された方を通して、NPO景観デザイン支援機構(TDA)発行の機関誌『景観文化』Vol. 61 にて、デンマークの建築ツアーについて紹介する記事を書く機会を頂きました。NPO景観デザイン支援機構 –> 機関紙『景観文化』 (tda-j.or.jp)

特定非営利活動法人景観デザイン支援機構(TDA)とは
・”まちづくりの経験や実績を多く持つ実務の専門家が主たる構成員となり、住民や民間企業および行政とも連携して、景観デザインを中心とした安全で快適なまちづくり活動を支援することによって、広く社会に貢献することを目的” とした団体。
・日本国内で専門家による勉強会開催や機関誌『景観文化』の発行を行う他、2014年より「日韓都市デザイン交流会」を通して韓国におけるまちづくりの専門家との交流も深めている。
出典・参考::: NPO景観デザイン支援機構 :: (tda-j.or.jp)

今回、寄稿記事を個人ブログに転載する許可を頂いたので、本記事として紹介いたします。(転載のため、語尾や構成がブログの他の記事と異なっています。)

A3サイズの図版を現地で示し、イメージを共有する(クリマ、コトナとティッゲン学生寮を訪問)

スケールデンマーク(Scaledenmark)は、デンマークの首都コペンハーゲンを拠点に建築ガイドを開催する企業である。ガイディングアーキテクツ(Guiding Architects)という、世界最大の建築家による建築ツアーのネットワークに属しており、異なる国の担当者と情報交換を行ったりしながら、協力して活動している(東京からの適した参加者も募集している)。スケールデンマーク単体では、ヨーロッパを中心に、毎年約15ヶ国の企業、教育機関、地方自治体などから顧客の受け入れを行っており、2022・23年には各年125-150程の半日ツアーを開催している。

スケールデンマークの設立は、2004年に、ボー・クリスチャンセン(Bo Christiansen)氏と、ビービケ・ゴーベ・ラーセン(Vibeke Grupe Larsen)氏によってなされた。二人はデンマーク王立芸術アカデミー(Royal Danish Academy. デンマークを代表する美術大学)に同時期に在籍し、共に建築を学んだ。現在はクリスチャンセン氏を筆頭に、筆者を含めた14名のフリーランスの建築ガイドによって構成されている。建築ガイドは、皆建築や都市計画、ランドスケープ分野の教育を受けた者で、大半は普段建築事務所に勤務したり、自身の建築事務所を経営したりしている。そして、クリスチャンセン氏からツアー開催の依頼を受けると、建築ガイドとして活動する。

筆者はクリスチャンセン氏に、蒔田智則氏(コペンハーゲンで約10年環境設備エンジニアとして勤務)の紹介で出会った。クリスチャンセン氏が日本に長年興味があり、ぜひ日本の顧客に対してツアーを開催したいということで、働かせてもらうこととなった。

建築ガイドとして関わる中で、印象的だったことが二つある。一つ目は、コンサルタントとしてツアーを行うこと。二つ目は、ストーリーの伝達に重きを置くことである。

一つ目について、コンサルティングを行うためには、十分な準備時間が必要となる。ツアー開催を確定した上で準備を行うため、スケールデンマークでは最低でも開催日の一カ月前にはツアー代金の振込をもってツアーを確約する決まりがある(開催まで一カ月を切った申し込みは、基本的に断る。ツアー開催は一年前に決まることも多い)。このように、決まったルートを繰り返す定型的な観光ツアーではなく、十分な準備期間を持ってそれぞれの顧客の要望に応じたコンサルティングを行うという点が、建築ツアーの付加価値を高めているのだと学んだ。

二つ目について、クリスチャンセン氏は、「インターネットで調べられるような情報を羅列するのではなく、それらの情報を紡いでエリアごとのストーリー、そしてツアー全体を通したストーリーを伝えることが重要」と強調していた。そのため、ツアーを計画する際は、訪れる建物の軒数に重きを置いたものとならないよう注意する。また、十分なコミュニケーションを取れるよう、一グループあたりの最大人数を12人としている(12人以上の場合は別グループを設ける)。また、ツアーの理念は、「エデュテ―メント(エデュケーション(教育)+エンターテインメント(娯楽)を併せた新語)」という言葉で表される。

JR東日本建築設計と、鉄道駅舎を含めたインフラストラクチャのデザインを行う建築事務所(Gottlieb Paludan Architects)を訪問

ここで、運営についても紹介する。基本的にはメールでツアーの問い合わせがくると、クリスチャンセン氏が全て対応し、日程やツアー内容の詳細、そして当日担当する建築ガイドを決める(日本からの問い合わせには、筆者がクリスチャンセン氏と連絡を取りながら調整する)。コペンハーゲンの場合、ツアー内容は、エリアごとにわけられた10のコース(1エリアあたり4時間が基本)を元に、インテリアツアーを組み入れたり、エリアを少し拡げたりとアレンジしていく。スケールデンマークでは、第二の都市のオーフス、そしてヨーロッパいちサスティナブルな島と賞されるボーンホルム島でも建築ツアーを開催しているが、代金は半日ツアー(4時間)、もしくは終日ツアー(8時間)で共通の設定となっている。

オールボー大学在籍中に実感したのだが、デンマークの大学では、新しく得た知識を粘土のように試行錯誤して変形させ新しいものを作り、その理由を説明して初めて評価される(計算式の丸暗記などは全く評価されない)。そして、この試行錯誤の経験が、社会においてもイノベーションの創出に大きく貢献しているのだと感じた。スケールデンマークでは、この知識の試行錯誤(編集)が対話を基本としたコンサルティングとして提供されているといえる。日本でも、参加者の抱える専門的な課題について共に考える場となるような建築ツアーが広まれば、数値の規制を超えてより質の高い景観や住みやすい都市を形成するための一助になるのではないかと考えた。

スケールデンマーク:https://www.scaledenmark.dk/ja

ガイディングアーキテクツ:https://www.guiding-architects.net/