オールボー(デンマーク)の工作物から、地域性を引き立てる色彩と屋外広告物の可能性について考えた

広告物

日本では行政機関を中心に、建物の外壁や工作物の色彩をマンセル値という数値で管理することが普及してきましたが、ヨーロッパでは街の中の色彩を数値で管理するという文化は普及していないと、友人や知人から聞いていました。そんな中、オールボーの工作物の色彩がきっちりと統一されており、レンガを基調とした街並みと適度なコントラストを作っていたので、どのように色彩管理をしているのか市役所に問い合わせてみました。頂いた回答から、色彩と屋外広告物についての発見があったので、記事にしました。

広告塔(左)と道路標識(右)に用いられたダークブルー(デンマーク・オールボー)
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ダークブルーで統一された工作物

バス停(バスシェルター)、広告塔、広告板、道路標識などにこの色が使われており、統一感のある街並みが作られていました。

広告物と一体となったバスシェルター(デンマーク・オールボー)
赤レンガ及び緑との適度な対比が見られる広告板(デンマーク・オールボー)
バスシェルターや広告塔と同じ色彩の小さな案内看板(デンマーク・オールボー)

日本では、色を客観的な数値として測る際、「マンセル値」という色を色相(色合い)、明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)という3つの尺度からなる値を使って測色することが一般的なのですが、マンセル値で測色したところ結果は「5PB(Purple Blue の略) 2.0 / 2.0」で、かなり暗く落ち着いた青系の色彩であることがわかりました。

広告代理店が主体となった景観づくり

こうした統一感のある色彩は、きっとオールボー市が主体的に普及させているのだろうと、オールボー市にメールで問い合わせてみました。

すると市に勤務する建築家の方から返事を頂けたのですが、回答は意外なものでした。要点だけお伝えすると、

・問い合わせのあった多くの工作物はドコー社(AFA JCDecaux)が管理している。ドコー社が提供したフレームに、市や企業がお金を払って広告を設置している。

・そのほかの工作物は、市でラル(RAL)カラーチャートを使って管理している。ただ素材や表面の光沢などによって色の見え方が変わるので、色番号での管理は難しいと感じている。(ただ最初の写真右の道路標識はこの方の部署の管轄ではないようでした。)

とのことでした。

改めて写真とドコー社のホームページで確認したところ、バス停と広告塔のフレームはドコー社という、広告代理店のものであることがわかりました。

ドコー社はフランスを拠点としており、グループ全体(The JCDecaux group)では世界80ヶ国以上、4,000以上の都市で活動するグローバルな広告代理店です(AFA JCDecaux, n.d.)(注1)。また2010年には屋外広告物の分野における世界最大の企業となっています(JCDecaux Group, 2011)(注2)。

デンマーク全体で見ると、広告枠の色はダークブルーかダークグレーのいずれかとなっているようなので(AFA JCDecaux, n.d.)(Google, n.d.)、広告代理店が決めた色に、行政が管理している工作物の色を合わせている、という構造が浮かんできました。景観に配慮して異なる種類の工作物の色を統一する、というようなことは行政が主導するものだと思っていたので、広告代理店が地域の色彩景観を主導しているということはとても興味深いと感じました。

また市内の地図などは、日本では行政が枠まで用意することが一般的だと思いますが、上記の写真のように既に用意された枠を使うことで、少ない労力で統一感のある景観を作れるのだということに気付かされました。(日本でも、ドコー社(MCDecaux)が活動しており(注1)、ドコー社の枠で周辺地図を表示する、という取り組みも行われ始めているようです。(エムシードゥコー株式会社, n.d.))

広告代理店の枠を市が借りることで設置された市街地図(デンマーク・オールボー)
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グローバル企業のローカルへの配慮

ドコー社のホームページを見ると、ストリートファニチャと屋外設備において、機能性と美装性の確保に努めていること、公共空間の中で控えめで透過性のあるものとなるようにしていること、各都市の特徴に合わせてデザインを調整していることが分かりました(AFA JCDecaux, n.d.)。ただドコー社のホームページやグーグルマップ、撮影した写真などを見ると、デンマーク国内での調整は主に形態に関するかなり繊細なもので、色彩についてはダークブルーとダークグレー以外のバリエーションは見られませんでした(AFA JCDecaux, n.d.)(Google, n.d.)。ただオールボーではダークグレーのバスシェルターや屋外広告物はみたことがないのですが、オーフスやオーデンセではダークグレーのものが主流で、コペンハーゲンでは両方のパターンが見られたため、ダークブルーの色彩というのがオールボーの一つの特徴になっているのだということが分かりました(Google, n.d.)。

オールボーと同じ色彩を用いながらも、よりモダンな形態となったバスシェルター(デンマーク・コペンハーゲン)

ドコー社の地域性への配慮は、他の国のデザインを見たときに明らかになりました。

ドコー社はフィンランドでも活動しているのですが、首都ヘルシンキでは、バス及びトラムのシェルターの色彩が、地域性に配慮していると感じました。フィンランドでは1890-1910年代に建てられた石造の高層建築物(Decades of Finnish Architecture 1900–1970, 2020)が多く残っているほか、路面には石畳が多く見られます。こうした石材は一般的にごく低彩度の黄色系なのですが、シェルターの色彩は黄色と類似する緑系の色相となっていました。(このとき色票を持っていなかったことが悔やまれます。)

石材が中心となった街なみと調和するトラムのシェルターとトラムの色彩(フィンランド・ヘルシンキ)

また、写真のように、トラム自体に黄色と緑が使われています。そのため、大面積を占める建築物・路面の黄色とシェルターの緑とが調和しているだけでなく、その間をトラムが走ることによって黄色と緑の組み合わせが協調され、躍動感と共に地域性を感じられるようになっていました。

石畳と類似する色相を用いながら、鮮やかさでコントラストをつけたトラムの色彩(フィンランド・ヘルシンキ)
石造りの高層建築物の間を走るトラム(フィンランド・ヘルシンキ)

また、広告板のデザインも、オールボーのものとは異なり、黄色系の有機的な形をしたものとなっていました。

石材と共通する低彩度の黄色を基調とした広告板(フィンランド・ヘルシンキ)

これらのことを踏まえて建築物と工作物から街並みの色彩の配色を考えると、ヘルシンキは黄色系と緑系の色相によって、類似色相の配色がされていることが分かります。(下図右参照)

同じようにオールボーの色彩の関係を考えると、工作物に用いられている青系の色相は、建築物で多く見られるレンガのオレンジ系の色相(注3)とほぼ反対の位置にあり、お互いの色相を強調しているといえます。補色関係にあるとも言えるのですが、しかしここで、なぜオレンジ系と真反対の色相を使わなかったのかという疑問が浮かんできます。

そこで、デンマークは農業が盛んな自然豊かな国で、市の中心部であっても街のなかに多くの植物が見られることを思い出しました(特にオールボーは第4の都市であることから、他の主要な都市と比較しても街なかの商業施設があまり多くなく、緑が豊かであると感じます。)。工作物の青、レンガのオレンジ、植物の緑を踏まえて配色を考えると、「トライアド」という、色相環を三角形でつないだ時に作られる配色になり(下図左参照)、ダークブルーの色彩は歴史的な建築物と自然の色に配慮した色となっていることが分かりました。

オールボーにおけるトライアドの配色(左)と、ヘルシンキにおける類似色相の配色(右)
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まとめ

一つの企業が、バスシェルターを含めた屋外広告物の大半を担っていると知った時、最初は地域の個性がなくなってしまうのではないかと懸念しました。しかしマンセル値などの色彩管理システムが一般にあまり普及していないことを考えると、実際にデザインを行う一企業が、一定のルールに沿って複数の広告物を手掛けた方が、統一感のある街並みを作りやすいのかもしれないとも思いました。

また、ドコー社について調べる中で、地域の特徴となる色彩を建材の元となる石や土の色、自然の色などの大きな枠で捉えていることがとても印象に残りました。地域の特徴をデザインに活かそうとすると、地域の特徴を過度に強調しすぎてしまう例があると思いますが(例えば、ミカンが有名だから工作物の色をオレンジにする…など)、地域の基本となる色彩を大切にしていれば、無理に個性を出そうとして近隣地域と大きく異なるデザインをする必要はないのだと感じました。そして、ドコー社のような世界中に活動拠点を持つ企業だからこそ、地域の特徴を大きく捉え、その中で細かな調整を行っていく、ということが自然と行われたのかもしれないと思いました。

今までドコー社が景観に配慮した屋外広告物を作成している、という話は耳にしていましたが、地域の色彩景観の形成にここまで積極的に寄与しているとは思いませんでした。また「屋外広告物を活用した景観」、という話になると、ニューヨークや新宿区のような大規模な広告物による地域の特徴づくり、ということになりやすいと思いますが、今回の例のように主張しすぎないけれども統一感のある屋外広告物によって地域の特性を出すこともできるのだと、目を開かされた気がしました。そして、都市デザインにおいてデザイン調整・仕組みづくり共に広い視野と連携が欠かせないということも改めて認識しました。

最後に、市の人口がそれほど多くないこととも関係しているかもしれませんが、一市民の素朴な疑問に市の担当の方が丁寧に答えてくれたことに感動し、オールボーという都市をますます好きになりました。

注釈

注1 日本でも、2000年に三菱商事株式会社との合弁会社としてMCDecaux(エムシードゥコー)株式会社が設立し、バス停留所の他、商業施設やシェアサイクルの広告物を手がけています。(エムシードゥコー株式会社, n.d.)

注2 屋外広告物の定義は日本と少し異なっています。日本では「屋外」に設置されていることが基本となっているため、基本的にはお店の窓内に設置された広告などは屋外広告物に該当しないのですが(最近は窓内の広告にも対応する自治体が増えてきていますが)、海外では家の外にある広告物は基本的に全て屋外広告物(outdoor / out of “home” advertising)とみなされます。そのため、広告板やストリートファニチャーと呼ばれる街路備品だけでなく、駅の中の広告物なども屋外広告物に含まれます。(Gino, 2018)

注3 多少のばらつきはありますが、色相は0-5YRのオレンジ系、明度は4-5、彩度は4-6の範囲にまとまっています。市の方によると、地区計画で屋根などの色彩制限はあるものの、ほとんど使うことはなく、主に素材について明記することで色のコントロールをしているとのことでした。

参考文献

AFA JCDecaux (n.d.) “ABOUT US”, [online]. Available at: The JCDecaux group | AFA JCDecaux, (Accessed: 7 Feb 2021)

AFA JCDecaux (n.d.) “Design”, [online]. Available at: Design | AFA JCDecaux, (Accessed: 14 Feb 2021)

Randersvej – Google マップ

Decades of Finnish Architecture 1900–1970 (2020) [Exhibition] . Arkkitehtuuri museo, Helsinki. the permanent exhibition

Gino Sesto (2018) “What Is Outdoor Advertising and Why Is It Important?”, [online]. Available at: What is Outdoor Advertising and Why is it Important? | DASH TWO, (Accessed: 14 Feb 2021)

Google (n.d.) “Aarhus”, [online]. Available at: Banegårdsplads – Google Maps, (Accessed: 15 Feb 2021)

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Google (n.d.) “Odense”, [online]. Available at: Østre Stationsvej – Google Maps, (Accessed: 15 Feb 2021)

JCDecaux Group (2011) “JCDecaux: number one outdoor advertising company in the world”, [online]. Available at: JCDecaux: number one outdoor advertising company in the world | JCDecaux Group, (Accessed: 7 Feb 2021)

エムシードゥコー株式会社「街メディア」街メディア | MCDecaux, (Accessed: 14 Feb 2021)

エムシードゥコー株式会社「エムシードゥコーについて」エムシードゥコーについて | MCDecaux, (Accessed: 14 Feb 2021)